形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

Cannetille (カンティーユ)と Filigrane (フィリグラン)

先日、Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「愛のヴィクトリアンジュエリー展」に行ってきました。
文化服装学院・工芸科の生徒に奨めた展覧会だったためです。産業革命が進行中のイギリスで作られたジュエリーには文化史的にも多くの示唆が含まれています。そこで、授業の一環として見てもらうためには、どうしても訂正しなければいけない箇所がありました。読みの違いなどは本質的な問題ではありません。たとえば Pique(ピケ)は仏語なので ピクエと読むフランス人はいませんが、意味的に問題ではないでしょう。しかし、Cannetille (仏)と Filigrane(仏)・Filigree(英)の意味の違いは文化史的に許されません。

「Fil=糸」ですから、Filigrane(Filigree)は糸のような細工を意味し、「線条細工」と和訳されます。
見た目の通りでそれ以上の意味はありません。
一方、「Canne・カン」は植物の「葦」を意味し、Cannetilleは「コイル状にされた金属線」「渦巻状にされた金属線」を意味します。「葦」がどうして「渦巻」をいみするのか?

 

「葦」   字統  白川静

ものを束ねてくくる意あり。葦を綱、縄にしてのかざりは、邪気を祓ったり、喪葬 の礼、又は婦女がこれを祀って一歳の吉凶をトした。葦をたばねるということに、民俗的な意味が含まれているようである。

 

漢字の成立期、象形文字や古代表象は具象的に、又は観念として漢字に取り込まれていきます。ただ白川氏の研究は文字情報を前提にしていますから、どうしても後世の情報が基になります。そこで古代表象と漢字を繋ぐ作業は文化史の範疇に入ります。

中国に入った「葦」の文明情報とは、当然メソポタミア文明となります。メソポタミアにおいて束ねられた葦は舟や、現在も残る集会場をつくる大切な材料です。そしてもうひとつ束ねられた葦で作られた、メソポタミア文明にとって重要な物があります。ウルク出土のB.C.3000年頃のものと言われている、雪花石膏で作られた壺にレリーフされている女神イナンナの表象です。白川氏の「葦を束ねる民俗的な意味」とは女神イナンナの表象が意味するところと繋がります。そして、Cannetilleの意味にも繋がります。 

女神に関する事柄は私のライフワークです。人間文明の根幹と考えています。大きなテーマですので、まとまった形で書かせていただきます。

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