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形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

JEWELRY MAKING・ジュエリーメイキング(5) Trous Borgnes・Pave'(Blind Holles Pave');「エルメスの手しごと」より

            エルメス(HERME'S)のイベント

 

2017年3月9~19日、表参道ヒルズ スペースオーにて「エルメスの手しごと」と題するプロモーションが行われました。エルメスの石留め職人(Le sertisseur)のコーナーもあるので見に行きました。あまりの人の多さにびっくりしましたが、意を決して人ごみの中へ、やっとエルメスの石留め職人(Le sertisseur)の作業机(機能的で、美しい作業机でした。)にたどり着きました。女性に混じって、私以外にも、職人らしき人が「石留め工程」の説明を、じっと見続けている姿もあり、関心の高さに改めて驚きました。当然、ブランドのプロモーションでもあり、説明は簡単なものでしたが、職人の方と話す機会もあり、今回みせていただいた「石留め(sertissage)」がジュエリーメイキングとしては特殊であり、十分に楽しめました。ブレスレット<ギャロップ>(The Galop bracelet)の、馬のヘッドに敷き詰められたダイヤモンド、この「エルメスの石留め(sertissage)」の何が特殊なのか書いてみたいと思います。

 

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(1)The Galop bracelet by HERNE'S;HAUTE TIME

 

 

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(2)The Galop bracelet by HERNE'S;Vogue Paris

 

 「石留め」の歴史において大切な進歩は、1800年前後に始まった「Open-back setting」だと考えます。ナポレオン一世時代、「アンピール様式」の洋服に合わせて「大きくて、色が美しい宝石の流行」に対応した「石留め」として、金属の中に埋め込むように留めていた宝石の底部を大きく開けて、宝石を色美しく輝かせるために光を取り入れる構造にしたのです。またそれは、大きな宝石を使用したネックレスなどの重量を軽くするためでもありました。

ところが「Open-back setting」に移行せず、「金属の中に埋め込むように留める石留め」が独自の進歩を遂げた業界がありました。宝飾時計の業界です。

 機械式時計は15世紀からゼンマイを使用するようになり、16世紀はじめから携帯時計が作られるようになりました。極めて贅沢な「ゼンマイ式懐中時計」はケースに宝飾を施すようになります。しかし、金属工芸的な加工は良いのですが、宝石で飾るには問題がありました。ケースに穴をあけることは出来ません。ごみや水が入ってしまいます。重くならない薄い金属に穴を開けないで、宝石を石留めすることが求められました。

 

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 (3)ローズカットダイヤモンド、ジャスパー、金、銀で飾られた懐中時計1751~52年、ロンドン;The Splendour of DIAMOND展図録

 

その解決方法が写真(3)の懐中時計に示されています。

 

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拡大(3)ローズカットダイヤモンド、ジャスパー、金、銀で飾られた懐中時計1751~52年、ロンドン;The Splendour of DIAMOND展図録

 

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(4)Blind setting(埋め込み式石留め);和久譲治のjewelrymaking

 

写真(3)の懐中時計は16世紀に生まれた「ローズカットダイヤモンド」を、金属に穴を掘り、ダイヤモンドを叩き込み、表面をデザインに彫刻する、「Cisere' setting」(stone setting参照)で石留めされています。ゼンマイ式時計、ダイヤモンドカットと宝飾技術の進歩が18世紀に到達した作品です。ただ写真(4)Blind setting(埋め込み式石留め)の(1)に示したように、ローズカットダイヤモンドは金属に完全に埋め込まれるため、石の表面が鏡面のようにキラキラ輝くだけで、ブリリアントカットのようには輝きません。当時、「カットスティール」がダイヤモンドの代用品として使われたことも、同じような輝きであったことで理解されます。

 

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(5)半円シードパール、エナメル、シルバー製ロケット、1866年Viena;ワクコレクション

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拡大(5)半円シードパール、エナメル、シルバー製ロケット、1866年Viena;ワクコレクション

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拡大(5)半円シードパール、エナメル、シルバー製ロケット、1866年Viena;ワクコレクション

 

 

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(32)生命の樹ブローチ :日本橋三越本店「逸品会」出品作品;和久譲治

18金製、ダイヤモンド、サファイア、半円パール、翡翠、白蝶貝

 

半円パールをpave'風にClou grain setting「Claw grain setting」するのは、私も好きなテイストなのでよく使います。

 

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(6)ホワイトサファイア、シルバーブローチ、19世紀英国統治下インド;ワクコレクション

 

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拡大(6)ホワイトサファイア、シルバーブローチ、19世紀英国統治下インド

 

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拡大」(6)ホワイトサファイア、シルバーブローチ、19世紀英国統治下インド

 

19世紀に入ると写真(4)Blind setting(埋め込み式石留め)の(2)のように、穴が貫通しない石留めは、不透明のカボッションカット、トルコ石やパールの石留めに、宝飾、時計両方の業界でよく使われています。写真(5)半円シードパール、エナメル、シルバー製ロケットは時計と同じように、穴を開けられないロケットに写真(4)Blind setting(埋め込み式石留め)の(2)が用いられたことが、ロケット内側のポツポツで良く分かります。表面の石留めは、19世紀盛んに用いられた「pave' setting」に似せた、Clou grain setting「Claw grain setting」です。「Raising,Cut-up(Relever)](写真7)で金属を掘り起こして、宝石に被せることををしないで、「pave' setting」で仕上げた様に金属を彫り、その後から宝石をClou grain setting「Claw grain setting」で、爪留めの様に、玉留めをします。「pave' setting」の様に「Raising,Cut-up(Relever)]をしていないので、どうしても宝石は外れやすいのですが、トルコ石やパールのような柔らかい宝石が留められるのが利点です。

 

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 (7)Raising,Cut-up(Relever);和久譲治のjewelrymaking

 

 

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(8)シングルカット(Single Cuts);Diamond Cuts in Historic Jewellery

 

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 (9)スイスカット(Swiss Cuts);Diamond Cuts in Historic Jewellery

 

19世紀末から20世紀初めにブリリアントカットダイヤモンドが完成に近づき、輝きを増しました。その時、大きなブリリアントカットダイヤモンドの補助的に使うには、ローズカットダイヤモンドの輝きは異質なものでした。そこで、小さく研磨しやすくて、ブリリアントカットのように輝くカットが必要になります。「Complementary Diamonds」として写真(8)シングルカット(Single Cuts)や写真(9)スイスカット(Swiss Cuts)が生まれました。宝飾時計業界はこれらの「Complementary Diamonds」を使うようになります。極めて小さく研磨出来ることに加えて、薄い金属に石留めするためにはブリリアントカットよりプロポーションが良いのです。そこで始まったのが、写真(4)Blind setting(埋め込み式石留め)の(3)の石留め方法です。

 

長い話になりましたが、エルメスのブレスレット<ギャロップ>(The Galop bracelet)の、馬のヘッドに敷き詰められたダイヤモンドはこの写真(4)Blind setting(埋め込み式石留め)の(3)の石留め方法で留められていました。宝飾時計業界で発達してきた「石留め」を用い、薄い金属の制約がないので、ブリリアントカットダイヤモンド直径1mm石を使用、一石一石「Raising,Cut-up(Relever)]をしながら留めていました。ジュエリー業界の基本である「Raising,Cut-up(Relever)]をした「pave' setting」と宝飾時計業界の「Trous Borgnes」を融合させた「石留め」がエルメスのブレスレット<ギャロップ>(The Galop bracelet)の手仕事でした。

 

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アトリエ近くの桜も散り始めました。

 

 

 

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