「イシュタルの手」の変容
(1)円筒印象印影、イラン、テペ・ヤヒヤ北方シャハダート出土(BC2,770年頃);円筒印象印影、
(2)千手観音座像(三十三間堂安置);Wikipedia(参照)
イラン、テペ・ヤヒヤの少し北方シャハダートで見つかった円筒印象の印影です。ここはメソポタミア向けに緑泥石の鉢を作っていた場所だそうです。
この女性は右上に「水牛の角・平衡」の表象をもっているので「平衡の女神」で
あることが分かります。また後世、アナトリアやギリシャを中心に見られる、いろいろな動物、植物を司る「生命の女神」でもあるようです。「平衡の女神」と「生命の女神」の習合は「ヴィーナス」と習合した雨による平衡の女神」と同じ意味です。
このように理解すると、「手(手の平に雨の〇が見えます。アナトリアでよく見られる、雨を意味する手の特徴です。)」の様でもあり、葉を付けているようなので「植物の花」のようにも見える、女神の「光背」の意味が理解できます。
「ヴィーナス」の概念では、「雨」は生命を宿す「豊穣」の意味になります。
それにしても「千手観音」によく似ています。
この「手の光背」の変容を「円筒印象」に見てみましょう。
(2)円筒印象印影、植物の生育(生命)を司る女神と女神の表象、アッカド時代(BC2,334~2,193);円筒印章 東京美術
植物の生育(生命)を司る女神、女神の頭には「水牛の角・平衡」、そして仲間の神は「生命の樹」の表象と水(生命を育てる水・復活の水)の入った容器を持っている。これらから、「ヴィーナス」と習合した雨による平衡の女神」、すなわちイシュタルであることが解る。
「水(生命を育てる水・復活の水)の入った容器」と「生命の樹の表象」は後に結びついてユダヤ教の「メノーラー」に繋がる表象を作っていきます。
(3)円筒印象印影、手に「生命・復活の水の容器」と「生命の樹」の表象」を持つイシュタル、ラルサ、イラク、BC1,834~1823年;円筒印章 東京美術
写真(2)・三叉状の「生命の樹の表象」は、写真(3)では、「水(生命を育てる水・復活の水)の入った容器」と結びつき(中心に置き)、一つになっています。表象の壺からは、写真(4)と同じように「生命の水」が流れています。また後世、神々の持つ「三又の槍や鉾」、「金剛杵」などのルーツになる表象だと考えています。
また写真(4)のイシュタルは「生命の樹の表象」を背負い、手に「水(生命を育てる水・復活の水)の入った壺」をもっている。この「水(生命を育てる水・復活の水)の入った壺」をもつ姿は、イランの女神「アナヒータ」や「観音菩薩」に引き継がれています。つまり、「アナヒータ」や「観音菩薩」はイシュタルの変容した(させられた)姿であることが解るのです。
さらにアナトリアでは写真(4)のような「水の流れ出る壺」をもつ女神像がテラコッタで作られています。
(4)円筒印象印影、エンキとイシュタル(BC2,300年頃);円筒印章 東京美術
写真(4)でイシュタルは「生命の樹の表象」を背負っています。そして淡水の神エンキは「聖鳥イムドゥグド」を伴い、「水の表象」を背負っています。しかし写真(5)では、イシュタルは「水の表象」を背負い、「門松」に似た「生命の樹の表象」を伴っています。これらの印影に写真(6)をまとめると、興味深いことが解ります。
(5)円筒印象印影、(左から)イシュタル、天空神アン、聖鳥イムドゥグドとエンキ(BC2,300年頃);円筒印章 東京美術
(6)円筒印象印影、(左から)エンリル、イシュタル、天空神アン、トルコ中央部、アッシリアの交易都市出土(BC20~19世紀)、円筒印章 東京美術
この地域で大切な神格は「二羽の鳥」で表されてきました。(参照)
つまり、豊穣の大神(天空神アンになる)とイシュタルです。ですから、写真(4)~(6)に現れる「エンキ」と「エンリル」は新しく生まれた神になります。写真(4)の「水の神」エンキは魚を伴った水の表象を背負っています。この表象は写真(5)のイシュタルが背負う「水の表象(手は水を表すので、当然このような表現も生まれます。)」と写真(6)のイシュタルの翼が合わさったような表現です。つまり、エンキはイシュタルの神格の一部(水)を引き受ける神として生まれたことが解ります。
また「エンリル」は「現生の権力を象徴する牛を統べるもの」つまり「現生の秩序と調和=平衡の神」として表現されています。これもイシュタルの神格「平衡」を新たに解釈した神格です。「水牛の角」は写真(6)のイシュタルの表象の中央に表されている「平衡」の表象です。
ではどうしてイシュタルの神格を分割して新しい神々を作り出したのでしょうか?
多くの円筒印象印影にあるように、写真(6)の中にヒントがあります。
(6)ディンギル
写真(6)に見るように、多くの円筒印象印影で天空神アン(元豊穣の大神)は手で「ディンギル *」の表象を形作っています。そして、エンリルと天空神アンの上部には「ディンギル *」が付いています。一方、イシュタルの表象は上から、雨の女神(〇 ◇ 雨、△ 女神)、平衡(水牛の角)、出産(ヴィーナス)が示されていますが、「ディンギル *」は付きません。
「八芒星」はコーカサス地方部族のアイデンティティのような表象です。
南フランスを中心とした「上部マグダレニアン(Supe'rieur Magdale'nienne)文化」(参照)の「雨による平衡の女神」と「オーリニャック時代」(参照)に「ヴィーナス像」を持って出アフリカしてアナトリアからバルカン半島、東ヨーロッパ、南ロシアに展開した部族の「出産の女神」が習合したイシュタルは、コーカサス地方部族の影響で翼を持ちますが、言わばよそ者の女神なのです。「二羽の鳥」で表されてコーカサス地方部族にも受け入れられてきましたが、彼らがメソポタミア文明を築いた頃から「ディンギル *」へのこだわりは強くなります。しかしメソポタミアが「ディンギル *」を持つ神々だけになった頃でも、シリア地方をふくむレバント半島では「二羽の鳥」への信仰は根強く続いています。
楔形文字の時代になっても、アッシリアの「ディンギル +」はメソポタミアの「ディンギル *」の元になったコーカサス地方部族の「八芒星」の、さらに元となった「平衡 +」のままです。
そもそも、楔形文字とは「▲・女神」の組み合わせを記号化したもので、アッシリアの「ディンギル +」も表象的には「平衡の女神」になります。
(32)「平衡のcheveron」から「八芒星」の誕生:和久ノート(参照)
よって「二羽の鳥」の概念は、ウガリット神話における神々「バアルとアナト」などに引き継がれていきます。ユダヤ教の天空神と智天使もこの例になります。
この「ディンギル *」の意味をより際立たせているのは「ナツメヤシの表象」を持つ「イナンナ」のウルクでの誕生です。イナンナの生命の樹は「ディンギル *」の形をした「ナツメヤシの花」で表されます。そして、イナンナは一部の研究者が「イシュタルのシュメール語の表記」と理解するように、イシュタルの多くの神格を引き継いでいます。面白いのは、イシュタルからエンキに分岐されていた「目すなわち雨・水」もイナンナに習合させたことでしょう。元に戻したのです。(このことはメソポタミア神話で、「目」をエンキから盗むイナンナの話になっています。)
(8)円筒印象印影、ウルク、イナンナとナツメヤシ(生命の樹)、イナンナの表象(葦で作った〇-目・雨粒とリボンー雨);円筒印章 東京美術
イナンナの表象
写真 (8)に見えるイナンナの表象は、エンキから奪ったとされる目(雨粒)に、「雨」を表す「リボン」が付いています。「ナツメヤシの女神」を、イシュタルの神格により近づけるために「雨の女神」を付加したわけです。(このために神話が作られています)ただこの表象(〇とリボン)は、ペルシャでは女神が王に与える「王権神授」の象徴となり、ヨーロッパでは「雨の女神の豊穣」を讃える「五月祭」の「花輪」と「リボン」などになります。
そして日本のアイヌにも、「五月祭」と同じように「花輪」と「リボン」の祝い方が残っています。元来女の子の祝い事であった「端午の節句」の「こいのぼり」には、「矢(戦いの女神)の付いた〇」と「吹き流し」が飾られています。仙台の「七夕飾り」もこの表象で、「七夕」本来の意味を暗示しています。(雨の女神の祭り)さらに、火消しの「まとい」に至っては、「火」と「水」の平衡(バランス)の意味があり、「雨による平衡の女神」の本義が現れています。日本においては「雨による平衡の女神」、「ヴィーナス」、「イシュタル」、「イナンナ」が混然一体となっている様子が見られるのです。面白い国です。いかに世界の多様な部族と文化によって日本が構成されているのかが解ります。
(7)Armenian flag(Proposed Artaxiad Dynasty standard(BC189~AD1);Wikipedia(参照)
このBC189~AD1頃のアルメニアの旗に描かれた「二羽の鳥」は 、この「ディンギル *」の意味を表す真ん中の「ナツメヤシの花」からすると、天空神とイナンナだと考えます。このようにイシュタルから「ディンギル *」のj女神・イナンナへの変容はメソポタミアからコーカサス地方で進みます。
また「ナツメヤシの花」は、その特徴のある花弁から「マーキス」形の表象を生みます。イシュタルから引き継いだ「豊穣の意味・天地のバランスがとれること」を、より今日的な「生命の樹・ナツメヤシの豊穣」の意味合いに変容しています。
(9)七宝つなぎ・Interlocking circles
今日の日本でも良く使われている,「マーキス」形の表象を持つ「七宝つなぎ」は、今見直してみると「〇・雨粒」、「◇・光る雨」、「マーキス・豊穣、女神」となり、イナンナに変容した「雨による豊穣の女神」となります。
(10)イシュタルの銘入りの円筒印象印影、古バビロニア時代;円筒印章 東京美術
バビロニア南部のシュメールで、イシュタルがイナンナに変容されていたBC2,000年頃、バビロニア北部、中部にセム語族(参照)が侵入します。アッカド帝国(BC2,334~2,154),古バビロニア王国(BC2,000年頃、ハンムラビ王・BC1,792~1,750にはメソポタミアを統一)などが打ち立てられた頃、イシュタルの新たな神格が現れます。写真(2)に見られる「生命の樹」を矢羽に見立てた「戦いの女神」の誕生です。
(11)イシュタルの円筒印象印影、古バビロニア時代;円筒印章 東京美術
この写真では、後にユダヤ教の「メノーラー」(写真14)になる「生命の樹と水」の表象から、「生命の水」が流れ、足下のライオンに命を与えています。写真(1)円筒印象印影に多くの動物が描かれているのと同じ概念である事が解ります。つまりアナトリア地方で強く表れる「ヴィーナス(生命の誕生)」からの影響で「平衡の水」から「生命の水」の概念が生れていることが確認できます。「エフェソスのアルテミス」の概念も写真(1)の「手(水)の光背」から生まれていたのです。「千手観音」の「千手」と同じように、「エフェソスのアルテミス」の多数の乳房の意味がこれでよく解ります。
れています
円筒印章 東京美術
(14)様々なメノーラー;File:V03p532001 Candlestick.jpg
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