司教杖(Baculo,Crosier)
1999年、東京富士美術館で開かれた「ポルトガルー栄光の500年展」の会場で、私は「キリスト騎士修道会大十字章」(参照)に出会い、心惹かれました。その衝動は抑えがたく、リスボンに旅立ちました。
その「キリスト騎士団十字紋章」を探し求める旅の途中、「リスボン国立美術館」で、整然と並んだ数十冊の分厚い本に出会いました。その中で、金工細工の優れた本を、時間をかけて撰び、小脇に抱えて持ち帰りました。
そして今「イシュタルの杖」の変容を考えていて、この美しい「司教杖」を思い出しました。「台座付き十字架」を含め、「イシュタルの杖」の本義が良く表れているので、紹介します。
司教杖(Baculo,Crosier),17~18世紀、Santa Clara(Coimbra);Portugues de Museus
これまで多くのイシュタルの杖を視てきましたので、意味合いは直ぐに解るはずです。手(雨)で持つ杖は、腕と杖で✙(平衡)を作ります。「雨による平衡」です。そして渦巻は、ヴィーナスの神性「生命・生命の誕生」を表しています。宗教上の「生命」の「平衡(バランス、調和)」とは、「慈愛」の言葉が一番当てはまると思います。
台座付き十字架(Cruz de Assento),1,500~1,520年、Se de Coimbra;Portugues de Museus
この「生命の樹の✙」も、「平衡」と「生命の樹」 で同じ概念「慈愛」の象徴になっています。一節を逆さにすると、ジョージア(コーカサス地方)の「葡萄の十字架」になります。古来、この地方の「生命の樹」とは「葡萄jの樹」だったので、初期の布教活動で、より受け入れやすい「生命の樹の✙」jとして、「葡萄の十字架」が生まれたと考えます。ポルトガルのこの「台座付き十字架(Cruz de Assento)」には、十字架の本義が表されています。
(1)円筒印象印影、イラン、テペ・ヤヒヤ北方シャハダート出土(BC2,770年頃);円筒印象印影、(参照)
(2)千手観音座像(三十三間堂安置);Wikipedia(参照)
この美しい「司教杖」を装飾から視れば、より興味深いことが分かります。一見、渦巻にスクロールする植物は「アカンサス(Acanthus)ポルトガルからバルカン半島西岸まで地中海沿岸に生息」にみえますが、花は明らかに「アカンサス(Acanthus)」の花ではありません。「アカンサス(Acanthus)」はキツネノマゴ科(Acanthese)で花は「筒状」に咲きます、Portugues de Museusの図録には「rodeia」の花と書かれています。オーストラリア原産の「pityrodia」もシソ科なので花は先割れの筒状です。
私の記憶では、「rodeia」の言葉に一度出会ったと考えています。荒野をさまよう部族の予言者の「杖」には、野ばらの「rodeia」の花」が巻き付けられている、といった記述です。この花は六弁花ですので、5弁花の薔薇とも違うのですが。宗教上の伝説の花なのか、もう一度調べてみます。情報をお持ちの方は、教えてください。