形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

Jewelrymaking・ジュエリーメイキング(2)洋彫りと和彫り(2)

 

f:id:blogwakujewelry:20150902210204j:plain

(1)Petit Fiori(プティフィオリ)ブランド設立以前作品:和久譲治

   Silver,パリ50‘sヴィンテージガラス

f:id:blogwakujewelry:20150902210134j:plain

(2)洋彫り(engraving)
 
金鎚(小さいハンマー)で叩いて進む「和彫り」のタガネには切断刃の下に「下刃」をつけています。スムーズに前進させる刃先の工夫です。graver(洋彫りタガネ)はengraving用のgraver(アルファベット用洋彫りタガネ)だけが「Backs]」と呼ばれる「下刃」をつけます。したがって、「線彫り(毛彫)」は同じような「下刃」をもつタガネで彫るわけです。しかし「和彫り」と「洋彫り」は全く違う彫上がりになります。金鎚(小さいハンマー)で叩く推進力と手で押す推進力の違いが大きく影響していると思います。・・と・まァ・・工具や技術面から見るとこのような説明になります。しかし、この見方では本質を見ていないようです。上の写真はリボンにレース柄を入れたくgraver(Square;アルファベット用洋彫りタガネ)で彫りました。筆記体のアルファベットのような優しい曲線が表現できます。私たちがイメージするヨーロッパのレース柄は「和彫り」ではありません。つまり、「文化」の違いが表現方法を変えているのです。
 16世紀頃からEtching(エッチング)やengravingによる精密線画の印刷技術(銅版画)がヨーロッパで広がります。精密線画を彫るために「engraving」の技術や工具が進化したのです。17世紀、バロック期から使われた銅版画用graverは「bullant(仏)」と呼ばれる断面がひし形「lozenge(仏)」のものです。細線を彫るため「Backs]を付けずに使用するため、「Backs]をもつ「Square;アルファベット用洋彫りタガネ」に比べて難しいgraverです。そういえば、ひし形graverだけを何気なくフランス語で「lozenge(仏)」と呼んできましたが、銅版画に使うgraverで、初期の銅版画はフランスで始まった為なのですね。
ヨーロッパにも「和彫り」の様に、金鎚(小さいハンマー)で叩いて進む洋彫り(Chasing)は当然あります。「George jensen」も(Chasing)で銀器に彫りを入れていました。jensenの骨太の銀器には力強い表現の出来る(Chasing)が合っているのです。Boxmakingでも(Chasing)が使われました。そして、デリケートなジュエリーメイキングにはgraverが進化してきました。「何を、どの様に表現したいのか。」があって、金属加工技術、工具は方向性を見つけます。だから、「ジュエリーの技術は・・」の前提は無意味です。素材があって、「ジュエリー」や金属機器といった垣根を超えた技術や工具を使うのです。

「和彫り」について、さらに言及すれば、日本の歴史が生み出した日本文化だと思います。奈良時代から明治時代まで「ジュエリー」の文化がほとんどなかった日本では、奈良時代以前に日本へ持ち込まれた「彫金」は、仏具や刀剣の金属加工技術として発達してきました。そして、戦国時代から長い江戸・鎖国時代は、日本文化の金属加工技術を、日本文化の中で研ぎ澄まします。江戸時代中庸からは庶民文化として、主に鼈甲の「櫛・かんざし」を作る職人が活躍します。「彫金」を施した金属製の「かんざし」は「飾り職人」による、江戸末期の流行です。明治時代、ヨーロッパのジュエリー文化が輸入された時、「彫金」の職人は「和彫り」で「彫り留め」なる(ヨーロッパではgraver「洋彫りタガネ」で行われてきた)、テクニックを作ります。日本の職人は、銀器に力強い表現として使われてきた(Chasing)で、石留めをしたのです。そのため、日本の「彫り留め」にはタガネの切れ味が際立つ、独特のニュアンスが生まれます。技術の違いがニュアンスの違いになっているのです。表現したいテイストによって、私は両方をミックスして使いますが、「和彫り」の方が非常に難しいです。graver「洋彫りタガネ」は正確な知識があれば、比較的に簡単です。「和彫り」は熟練が必要です。長い修行を必要とする、まさに職人芸です。長い修行を必要とする職人が少なくなった日本では、貴重な表現方法です。今回の日本橋三越限定品の「和彫り」は、先代から知っているキャリア40年の職人さんにお願いしました。日本橋三越表記(Petit  Fiorix和彫り)。私にはあの切れ味は到底出せません。「はつる」技術が生み出す強い表現は「彫金」の魅力です。今回の企画を受けた時、「和彫り」をプロデュースする良い機会だと考えました。この様な機会に日本の職人芸がもっと広く知られることを望みます。

f:id:blogwakujewelry:20150904202058j:plain

Petit Fiori(プティフィオリ)和久譲治x和彫り;silver

日本橋三越限定品(秋のプロモーション;9/9~9/23;本館一階アクセサリースペース)

f:id:blogwakujewelry:20150909122253j:plain

秋の新作コレクション、どんぐりピン

Petit Fiori(プティフィオリ)和久譲治;siver,琥珀、ダイヤモンド、グリーンガーネット

 graver(point+liner)の洋彫り
「どんぐり」へのこだわりは装飾文化史;ドングリをご覧下さい。
( 大人のジャケットにつけてほしくて作りました)

f:id:blogwakujewelry:20150911150752j:plain

秋の新作コレクション、オパールと紫貝のバラ

Petit Fiori(プティフィオリ)和久譲治;siver,オパール、紫貝

花びら(silversmithing)、洋彫り「紫貝(カメオ彫り)、蕾(フローレンタイン)、葉(レリーフ彫り)」

 
 
]
 
 
 

 

© 2019 JOJI WAKU Blog. All rights reserved.