形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

黄金伝説展 古代地中海世界の秘宝(15)       

シレノスの正体と野ブドウ

 

f:id:blogwakujewelry:20160102210053j:plain

(22)ETORURIA;横たわるシレノスが表された飾り板(拡大)

;ヴィニャネッロ、クーバ墓地、第七号墓、
イタリア(BC480年頃)

 

 

f:id:blogwakujewelry:20160102210458j:plain

 (22)横たわるシレノスが表された飾り板;星形・五弁花(拡大)
 
 
ひとつひとつ精査していきましょう。黄金伝説展図録では横たわっているのは、ギリシャ神話に出てくる「シレノス」だと説明されています。「シレノス」は「豊穣とブドウ酒の神・ディオニュソスの教師であり、ブドウ栽培を地中海沿岸に広める旅の従者にもなる。このギリシャ神話においても「シレノス」は「ブドウ」と深い繋がりを持っています。ローマ神話では「シルヴァヌス」が、ギリシャ神話の「シレノス」と同一視されている。(Wikipedia・シーレーノス参照)しかし、その「シルヴァヌス」はエトルリアの「森の精霊・Selvans]に由来するそうです。以前にも書きましたが、ギリシャ神話がアテネの人々のアイデンティティと伴に作られていったのが、古典期(BC500年頃から)だとするなら、エトルリアの最盛期(BC600年頃)が先んじています。「森の精霊・Selvans]の方がオリジナルで、ギリシャ神話の「シレノス」と「ディオニュソス」は後で創られたことになります。「形而下の石」としては、写真(27・28)の葬祭絵画が残されていますす。
いずれにせよ、写真(22)が「星」ではなく、これらのことから、「野ブドウの花」であることは確かです。
 
 

f:id:blogwakujewelry:20151227194226j:plain

 (26)野ブドウの花  ;  リンク・みんなの花図鑑

 

 

f:id:blogwakujewelry:20151227194056j:plain

(26)野ブドウの花(拡大)

 

皆さんも「野ブドウ」の画像を検索してみて下さい。三葉形やハート形などのバリエーションっを見ることが出来ます。つまり、黄金伝説展図録で「ツタの葉の冠」と紹介されているのも「野ブドウ」だと思いますよ。野ブドウ属は「カズラ」ですから、「ツタの葉」で間違いではありません。しかし、エトルリアの黄金作品を見る場合は「野ブドウ」として見たいものです。何故なら、これらの作品は「ブドウ」の意味が重要ですし、エトルリアの民族由来を知る上でも重要な「ワード」になるからです。

写真(27・28)カルロ・ルスピによるタイクィニア、トリクリニオの墓・葬祭絵画複製画(BC470年頃)。この墳墓の所在地はは、南エトルリアの火山地帯・凝灰石の地層で岩窟墓地帯でもあるし、古来、エトルリア・ブドウ栽培の中心地でもあります。(22)横たわるシレノスが表された飾り板;ヴィニャネッロ、クーバ墓地、第七号墓、もこの地域です。

 竪琴を弾く女性、踊る女性、足元には「野ブドウ」が実っています。頭には「月桂冠」が見られます。二重笛を吹く男性の頭には「野ブドウ」で作った冠が見え、「豊穣の楽園」には鳥がいます。樹は葉の形と実の付き方からして「月桂樹」だと思います。他の場面では「イチョウの木」が見られ、鳥が飛んでいます。

 「野ブドウ」、「月桂冠」、「イチョウ」---何か気づきませんか?そうです、すべて「雌雄異株」の植物なのです。受粉には「鳥」が必要なのです。「鳥の精霊」と「豊饒の大地」はこうして結ばれていたのです。また、「鳥の精霊」はエトルリアの民族由来を示します。「鳥の精霊」が「月桂冠」を持っている姿は、そのまま「ニケ」を想起させます。「野ブドウ」で作った冠で二重笛を吹く男性と踊る女性、ディオニュソスの儀式みたいですね。でもこの時代はもっと素朴に「豊穣の祝い事・収穫祭」が近い気がします。

 

 

f:id:blogwakujewelry:20160104005945j:plain

 (27)カルロ・ルスピによるETORURIA,タイクィニア、トリクリニオの墓・葬祭絵画複製画(BC470年頃)

エトルリア文明(古代イタリアの支配者たち)ジャン・ポール・ティリエ;創元社

 

 

f:id:blogwakujewelry:20160105220904j:plain

 (28)カルロ・ルスピによるETORURIA,タイクィニア、トリクリニオの墓・葬祭絵画複製画(BC470年頃)

エトルリア文明(古代イタリアの支配者たち)ジャン・ポール・ティリエ;創元社

 

 

 

© 2019 JOJI WAKU Blog. All rights reserved.