形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

トピックス(7) 文化服装学院 ファッション工芸科・文化史授業 ノート(4)

 

 

ノート補足;コーカサス地方のクロスステッチ刺繍

 

 

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(10)CAUCASUS(コーカサス)のクロスステッチ刺繍;DMC Museum Collection

  Cross-Stitch  Folklore 雄鶏社

 

人類文化の表象を読み解こうと試みる人にとって、これほどコーカサス地方・古代世界の観念を含有した「形而下の石」はありません。黒海大洪水(BC5,600年頃)の後に起った、北アフリカ・ズールーとコーカサス地方の文化・観念の衝突と融合が、このクロスステッチ刺繍文様に表されています。この後、世界に伝播していくコーカサス地方の表象形成過程が良く理解できます。「表象表現 ハート形・コーカサス(Caucasasu)とミノア文明(Minoan Civilization)を繋ぐもの」において、何度も引用することになるでしょう。コーカサス(Caucasasu)文化とズールーの観念はそれぞれの地域性を維持しながら、補完しあったことも良く解ります。ミノア文明(Minoan Civilization)は両者の衝突と融合から生まれたようです。

「Chevron(Cheveron仏古語)」に守られた「大地」に、コーカサス地方原産である「雌雄異株・野ブドウ」の受粉を促す「豊饒の鳥妖精」、そして石包丁の打欠き文様・「Chevron(Cheveron仏古語)」から発達した「大地を守る蛇」が描かれています。この二つはコーカサス地方で生まれた、黒海大洪水(BC5,600年頃)以前からの表象です。残りの二つの表象には明らかに「ズールーの観念」が見られます。四分割された空間の真ん中には、黒海大洪水(BC5,600年頃)後に生まれた、コーカサス地方、西アジアの「大地の表象」である四角があります。そして、「四角の大地」が広がるように、ズールーの観念である「四つの歪み」を表す十字型(コーカサス地方、西アジア由来)とハート型(北アフリカ、エーゲ海由来)が四分割された空間を満たします。その周りの「三角意匠の花」は地中海海洋民の「雨による平衡の女神」を表していますので、まとめるとコーカサス地方で解釈された地中海文化の表象だと解ります。

そしてこの季節ですから、最後の一つが大切でしょう。左右に描かれているのは、明らかに「コーカサスモミ」の樹です。植物学に詳しい人が知るように、「クリスマスのモミの木」は正式名称「コーカサスモミ」なのです。このクロスステッチ刺繍は「コーカサスモミ」の樹が「ズールーの大地の観念」を表象する樹になり、さらに後の時代に「聖樹」、「生命の樹」や「宇宙技」などのルーツになったことを示しています。ズールーの大地の観念(成長を通して物事は活発になり、次第に発展して周期となり、もっとも小さい統一体から、もっとも大きな集合体へ積み上げられる。)は北アフリカ・緑だったサハラ砂漠では円錐形の「角」で表象しました。写真(104)タッシリ・ナジュール(サハラ砂漠)・岩絵複製画の「平衡の王女」には大きな「角」が描かれています。「円環」の積み重なった形は「円錐形」で表します。写真(20)古代エジプト 中王朝期(BC2,040年~BC1,550年頃)の儀式用パンに「円錐形」が見られる理由も、同じ「ズールーの大地の観念」に由来するものと考えます。真っすぐに大空に伸びる「円錐形」である「コーカサスモミ」にコーカサス地方の人々は「ズールーの大地の観念」を重ねたようです。「コーカサスモミ」の樹の周りには、「四角」に「ⅹ」のクロスステッチが階層的に存在します。解り易い表象です。

 

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(11)Serbia Montenegro(セルビア モンテネグロ)の民族衣装

  DMC Museum Collection; Cross-Stitch  Folklore 雄鶏社

 

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 (9)旧ユーゴスラビア・ク ロスステッチ刺繍;BRODERIES YOUGOSLAVES

 

今、あらためて写真 (9)旧ユーゴスラビア・ク ロスステッチ刺繍を見ると、写真(10)CAUCASUS(コーカサス)のクロスステッチ刺繍が旧ユーゴスラビアで変容したものであることが良く解かります。「円錐形」の「コーカサスモミの樹」は「生命の樹」になってはいますが、その葉にモミの木の名残を残しています。「蛇」は木の枝に姿を変え、「生命の樹」を守っています。「豊饒の鳥妖精」はそのままの姿で「生命の樹」に留まります。「ズールーの大地の観念」の表象は大きい赤い花として咲いています。中でも「三角意匠の花」は「三角意匠の女神」となり、地中海文化の「雨による平衡の女神」はより強く、はっ」はと現れていjます。空間を満たす「三角」も「雨による平衡の女神」の現れですから、旧ユーゴスラビアには古代からの「雨による平衡の女神」の観念が強く、民衆の間に残っている事が解ります。

以上のような共通性は、{七世紀にアジア系遊牧騎馬民族のアヴァール人と共にバルカン半島にやってきたスラブ民族のクロアト族(クロアチア人)とセルブ族(セルビア人)は、「一説によれば、かってヨーロッパに侵入した騎馬遊牧民サルマティア人がスラブ人の間で暮らすうちにスラブ化されたものとされる。」(森安達也;世界の歴史ビザンツとロシア・東欧)}を証明しているようです。サルマティア人とコーカサス表象の関係は、これからの「表象表現 ハート形 コーカサス(Caucasasu)とミノア文明(Minoan Civilization)を繋ぐもの」で見ることになります。

クロスステッチ刺繍を見る時、私達は装飾や民芸品、またはファッション文様として見てしまいます。しかし思い出して下さい、少なくても第一次大戦以前に、私達が持っている純粋造形やアートは存在せず、装飾文様は古来からの意味を持って使用されていたのです。「ハレの日」の民族衣装に、一刺し一刺し、伝統の文様を守ってきた民族の表象には、民族のルーツが表れています。私達が当たり前だと思っている、ファッションやアートは、わずか百年の出来事です。一万年の歴史を持つ表象・文様から多くの人類に関する情報が得られるのは当然なのです。DMC Museum Collectionを詳細に見ることが出来る機会を持つ人は、どうか多くのことを、私達に教えて下さい。再発見される歴史が眠っているはずです。

 

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(104)タッシリ・ナジュール(サハラ砂漠)の岩絵複製画

  女神の心 ハリー・オースティン・イーグルハート

 

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(20)古代エジプト 中王朝期(BC2,040年~BC1,550年頃)のパン

   パンの研究 越後和義・柴田書店

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(1)[Boteh]ブローチ;白蝶貝、胡蝶貝、ダイヤモンド、サファイア、エメラルド、パライバトルマリン、スピネル、18金製;Petit Fiori ・和久譲治

 

西アジアで生まれた ペイズリー文様のルーツとなった[Boteh]文様も、CAUCASUS(コーカサス)のクロスステッチ刺繍から発展したことが理解できます。

 

 

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                       Petite Collier  銀座和光本館三階

           コーカサス地方の「聖樹」を思う「聖夜」を!!

 

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