「茅」 聖なる草の系譜と聖なる文様の誕生
Imperata cylindrica(チガヤ・茅、コゴン・グラス等)、Desmostachya bipinnata(ハルファ・グラス、ソルトリード・グラス等)そしてElymus mollis Trin.(ハマニンニク-テンキ、American dunegrass)
聖なる草・「茅」を「チガヤ」と読むと、植物学的には、「Imperata cylindrica」になります。しかし、インドにおいて仏教、ヒンズー教などの聖なる草のサンスクリット名「daabh」「darbha」、「kusya」は、「Desmostachya bipinnata」にも「Imperata cylindrica」にも使われています。日本でも「茅」は、「チガヤ」とも「カヤ」とも読むことが出来ます。私達は聖なる草・「茅」を考える時、植物学的なアプローチに加え、、文化史的な定義が必要なようです。今までの考察から導かれる定義は「芝の家や植物素材の籠を編む文化で、中心的に用いられたイネ科の植物」ではないでしょうか。そうすると、「ズールーの概念」とともに伝播した「植物素材を編む文化」は明確な道を作ります。
(48)Desmostachya bipinnata;Wikipedia
北アフリカ原産のイネ科でアルジェリアなどから、イラン、パキスタン、インドなど中東諸国、そしてミヤンマー、ネパール、タイに分布する。
(49)Imperata cylindrica;Wikipedia
日本名「チガヤ」で日本全土、アフリカからインド、オーストラリア、東南アジアまで分布している。
(50)Elymus mollis Trin;アイヌと自然デジタル図鑑
アジア原産で日本、中国、韓国、ロシア、アリューシャン列島から北部北アメリカ、そして「アメリカの砂丘草」として、アメリカの砂丘。アイヌの籠「テンキ」を編む「テンキグサ」で、イヌイットの籠も編まれる。
「Desmostachya bipinnata」、「Imperata cylindrica」、「Elymus」mollis Trin」の分布に同じイネ科の亜種を加えると、北アフリカから北アメリカへ伝播した文化の道と重なります。そしてこの縄文時代(土器の文化)以前に伝播した「芝の家や植物素材の籠を編む文化」は、北アフリカの「ズールーの概念」により「茅・イネ科植物」を編む行為を「聖なる」ものにしました。「聖なるもの」とされる概念の根底には、「ズールーの概念」と「芝の家や植物素材の籠を編む文化」が存在しているようです。更に、同じイネ科の「稲」や「小麦」「黍(キビ)」などの原産地を考えるヒントにもなるはずです。
(51)テンキ;別冊太陽 先住民アイヌ民族 平凡社
別冊太陽によると、「同様の技法で編まれるカゴは、アメリカ北西海岸からカナダ、アラスカ、アリューシャン列島、カムチャツカ,千島列島などは北方諸民族にもにられる。」そうです。ところでこの「テンキ」には「文様」があります。この「文様」の変容した図案はアイヌの儀式用ゴザ(チタッペ、キナ)に見られるだけでなく、「kusha Mat」と呼ばれるインドの儀式用、瞑想用のゴザにも見ることが出来ます。これらから解るように、「聖なるもの」を表すであろうこの「文様」は、何を表象しているのでしょうか。そしてこのことは「植物素材の編目」に概念を付加して、「聖なる文様」を生み出したことの証明になります。
(52)編目のKnotsによる見え方;TRIBAL & VILLAGE RUGS Thames & Hudson
編み物を知る人には簡単なことだったのです。編目のKnotsによって、十字架の変形に見えていた「文様」は、「円環」でした。インド人は「kusha Mat」に、そしてアイヌ民族は編み籠「テンキ」や儀式用ゴザ「チタッペ、キナ」に「聖なる文様」として、「円環」を描き続けてきたのです。そうしてみると「円環」は「文様」の源流に位置していることになります。そうして「文様」の誕生は「ズールーの概念」である「円環」から始まることになります。この「文様」の変容形は世界中に見られますので、いずれ時間軸に並べてみたいと思います。
「ズールーの概念」の「円環」と同じ様に、「ズールーの概念」を具現化した写真(35)Round lid(円形飾り板)(参照)から始まる「Disc Brooch(ディスク ブローチ)]は、その変容の仕方から、それを作る民族の「概念」を知ることが出来ます。このことにも、これから順次触れてみたいと思います。
(35)Round lid(円形飾り板)、前期シリア文化期(BC1,760~BC1,700年頃)
古代シリア文明展図録(参照)
(53)Gold discbrooch(ディスク ブローチ)Byzantin(ビザンツ帝国)3世紀~4世 紀
A HISTORY OF JEWELRY PARK LANE
Gold板にrepousse'(打ち出し)によって描かれたビザンツ帝国(3世紀~4世紀)、初期キリスト教時代のdisc broochは写真(35)Round lid(円形飾り板)・「ズールーの概念」の「大地と宇宙」が変容したことが分かります。ただし、写真(35)と写真(53)を比べて下さい。よく見るとズールーの神・「平衡の王女」を表す「ペアシェイプ」が見当たりません。「四つの空間」と「周期の円環の重なり」はそのままに、宇宙に遍在するはずの「平衡の王女」が消えています。やがて「四つの空間」は四人の聖人が座を占めることになります。そして「四つの空間」の境界は十字架になります。これが時代による変容です。