形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

トピックス(8)ズールーの概念と貝の文化(3)

 

                           赤と渦巻(2)  

                     Nassarius gibboslus(ムシロガイ)のShell jewelry

 

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(4)ネアンデルタール人の妊婦とされる(アフリカから進出してきた新人のものではないでしょうか?)「ホーレ・フェルスのビーナス」(マンモス牙  製);ドイツ、ホーレ・フェルス洞窟遺跡 35,000~40,000年前:Wikipedia

 

巻貝の意味を理解するために、もうひとつ重要な遺物があります。「ビーナス像」と呼ばれる小像です。ドイツ南西部のシェルリンゲン(Schelklingen)にあるホーレ・フェルス洞窟遺跡からの発掘では、35,000~40,000年前のものだと発表されています。35,000~40,000年前は、これまで「前期ベリゴルディアン期にあたり、ネアンデルタール人の文化(ムスティエ文化)を引き継ぎ、地方的に発達した文化の時代」とされてきました。しかし、新人(ホモサピエンス・サピエンス)の文化である「オーリニャック時代」は、初期の編年からどんどん時代を遡り50,000年前の遺跡が見つかっています。レバント地方で約110,000年前の「巻貝ビーズ」がみつかっているのですから新人(ホモサピエンス・サピエンス)のヨーロッパ進出はもっと早かった可能性があります。このように「ベリゴルディアン文化」とはネアンデルタール人と新人(ホモサピエンス・サピエンス)の文化の混同から生まれたもので、ネアンデルタール人の「ムスティエ文化」と新人(ホモサピエンス・サピエンス)の「オーリニャック文化」の共存を考えた方がよいようです。そう考えると、「オーリニャック文化」の後半に数多くの「ビーナス像」が作られているのですから、「ビーナス像」の文化はアフリカをレバント地方から出て、初めてヨーロッパに到達した新人(ホモサピエンス・サピエンス)の文化だと考える方が自然です。だからこの時期の「妊婦像」も、初期の新人の思考対象が何であったのかを知る手掛かりになると思います。

この「概念」を知るには、「オーカー」、「巻貝」、「女性」、「埋葬」、「ビーナス像」を同時に考える必要があります。そうすると、「女性」が身に着けた「巻貝」の意味は自ずと理解されます。「オーカー」は「血の色」、「ビーナス像」は「妊婦」、「埋葬」は「人間の命(生命)」に置き換えられます。そうすると、「巻貝」は「回旋」だと考えるのが自然なことです。「回旋」とは「胎児の産道通過の回旋」です。「渦巻」は「胎児の産道通過の回旋」を意味していたのです。

約200,000年前アフリカで進化した新人(ホモサピエンス・サピエンス)が理解を超えた事として、目を凝らし観察し続けたのは「生命の誕生」だったと考えます。だからこそ、「生命の誕生」は「生命の終り」と結びつけられ、埋葬に「オーカー(血の色)」を使用したのだと思います。

何の知識もなく「生命の誕生」を観察し続けた彼らには、「生命の誕生」とは「赤子」、「回旋」、「「大きなお腹」だったと考えます。さらに「生命を誕生させる女性」への思いは「妊婦」ではない「ビーナス像」も創りだしています。この「女性像」は新たな「女神」に変容していきます。「男根」、「性交」の遺物が見つかるのは、後期旧石器時代末期になってからです。初めてヨーロッパに到達した新人はまだ「生命誕生のメカニズム」を理解できなかったようです。(「アフリカ創世神話」では「生命誕生のメカニズム」をはじめて理解したのは「ピグミー」だったと語られています。そういえば、福島県の「御婆様」も黒くて小さい老婆ですね。エジプトのお産の神様「ぺス」は小さいおじさんです。初期の新人の思考方法を「概念に概念を重ねることなく、見た物を具象物や自然現象、行為に直接的に置き換える」と考えれば、「巻貝」、「渦巻」が「生命の誕生」であることは理解できるはずです。後世の「渦巻文様」を理解する時「生命」、「誕生」」の原義が含まれていることを考える必要があります。

「直立歩行」に移った人間の宿命として、産道が圧迫され、骨格から見て、大変な難産だったことは広く知られたことです。彼らが「巻貝」に託した思いが理解できそうです。

 

 

 

 

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