形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

トピックス(9)「イシュタル」の表象(3-1)

 

イシュタルの表象・「手」(1)

 

 

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(1)Relicario(聖遺物容器)ポルトガル、コインブラ、旧大聖堂

 Inventario da Coleccao Museu Nacional de Machada de Castro Coimbra

 

北海道「手宮洞窟」は言語的、表象的に「雨による平衡の女神」の洞窟でした。本題に戻り「イシュタルの表象」を見直して、見落としがあることに気づきました。

 

 

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(60)拡大

 

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(60)Burney Relief・イシュタル、メソポタミア文明;wikipedia

 

写真(60)の「イシュタル」は「平衡」の表象「Cheveron ✚」を作るために、手に横棒と輪を持っています。しかし、「手」は不自然に指を全て伸ばしています。まるで仏像の「手」と同じです。「雨を表す「手の表象」を形作っていました。

この時思い出したのはポルトガル、コインブラ旧大聖堂の「Relicario(聖遺物容器)」とモロッコ(Morocco)のユダヤ教synagogueのドア、そしてモロッコ(Morocco)の「Amulet jewelry」です。

さっそく本を探しました。「ガーネット象嵌の十字架アンティークジュエリー」(参照・長い文章ですがスクロールして下さい。写真があります。) を探しにポルトガル・リスボンに行き、出会った本です。興味深い「Relicario(聖遺物容器)」」が色々と収録されていたので、重い本でしたが、機内持ち込みで抱えて帰りました。(荷物が重量オーバーになるので)ポルトガルでは「手」のアンティークジュエリーもよく見かけました。今回の「イシュタルの表象」・「手」に繋がっているとは考えもしませんでした。

 

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(2)door of synagogue in the mellah of M'Hamid, Dra'valley,Morocco

   jews MOROCCO; MERELL

 

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(3)Mains d'argent

   Bijoux du Marco;EDISUD

 

モロッコのユダヤ人が持っていた表象は、彼らの出自を物語っていて大変興味深い物です。モロッコに移動してきたユダヤ人は、表象から見て民族的に古層の人々であったと考えられます。そしてすべての表象はコーカサス地方に結びついています。

 

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(4)Wedding Contract

 jews MOROCCO; MERELL

 

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(5)Wedding Contract

  jews MOROCCO; MERELL

 

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(6)Amulet for a newborn son

  jews MOROCCO; MERELL

 

マグダレニアン期に南仏で生まれた「雨を表す「手の表象」は、特に東への伝播経路で発展します。「手」のプリントは線画の「手」になり、やがて立体的なテラコッタや石の像に変わります。

 

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(7) Alamannic Bow brooch(ca. 480~510)

   BRIGHT LIGHTS IN THE DARK AGES;The Morgan Library $ Museum

 

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(8)Merovingian Bow brooch(first decades of sixth century)

   BRIGHT LIGHTS IN THE DARK AGES;The Morgan Library $ Museum

 

「雨」=五本、「平衡」=二本、「雨による平衡」=七本

 

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(53)金製柄の短剣と装飾鞘(poignard dans son fourreau);金、ガーネット、カーネリアン、トルコ石・1世紀最終四半期;ウクライナ、ロストフ州、ダーチ墓地一号墳

  L'OR des amazones,PARIS musees

 

写真(9)を見てみると、中央アジア・プロト・インド・ヨーロッパ語族の立体的な「手」を持つ「雨による平衡の女神石像」は古い時代のものである事が解ります。なぜなら、フランスやフランス・ブリタニー地方に現れた「水牛の角」を持つ石像は、黒海北にも見られ、なによりその表象はコーカサス地方のものだからです。東に伝播した「雨」を表す「手の表象」は中央アジア・プロト・インド・ヨーロッパ語族とコーカサス地方・部族の西進と共に、具象的な「手」をとしてドイツ、フランスに戻り、さらにその「雨による平衡の女神」のシルエットは北欧、アイルランドに現れます。

 

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(9)「手」と「水牛の角」を持つ「雨による平衡の女神」

 THE LANGUAGE OF THE GODDESSより 和久ノート

 

 

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(10)「ヴィーナス」と融合し、「手」の表象を持つ「雨による平衡の女神」

    BC5,000年頃 ハンガリー:古ヨーロッパの神々

 

「水牛の角」が体から離れ、「釜」のような形になると、この「手」の表象を持つ「雨による平衡の女神」は、写真(9)フランスの女神のイメージと重なり、キリスト教がヨーロッパに定着した頃、「大鎌を持つ死神」にされてしまします。もっとも「雨による平衡の女神」が冥界と結びついたにはコーカサス地方で、黒海大洪水の後です。(参照)

 

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(11)「水牛の角」が「釜」のように見える「手」の表象を持つ「雨による平衡の女神」

 BC5,000年頃 ハンガリー:古ヨーロッパの神々


そして写真(9)から、南ロシアのスラブ系そして今中央アジア・プロト・インド・ヨーロッパ語族の遊牧民のものと考えられる立体的な「手」を持つ「雨による平衡の女神石像」が、コーカサス地方の神格を表す「水牛の角」(参照) と同時に表現されている事実に気が付くのです。

これは大変なことです。「北欧神話」で語られる、スラブ系遊牧民の「アース神族」と、コーカサス地方の「ヴァン神族」の戦いと同盟が証明されているのです。そして「北欧神話」に語られる初期の神々の属性、遺物に現れる表象は黒海沿岸に結びついています。

これから、以上のことを詳しく、形而下の遺物を示しながら、「イシュタルの手の表象」として見直していきます。

 

 ーー形而下の文化史らしくないことーーー

「北欧神話」の訳者、米原まり子氏の「訳者あとがき」を読み、熱い思いがこみ上げてきました。

「 古代の信仰がしだいにキリスト教に席巻されていくさまは、ヨーロッパのいずれの地においても見られるありふれた情景だが、古代の神々の没落の姿は痛ましい。ハイネは

[流刑の神々]で、キリスト教による世界支配の結果、悪魔として存在せざるをえなくなり、悲惨な状況を余儀なくされるギリシャの神々を語る。もちろんそれは北欧の神々にもあてはまる。[精霊物語]では本来のゲルマンの民俗信仰が語られるのだが、そこにおいてでさえ、キリスト教に対立する神々の名はギリシアの神々に取って代わられている。ハイネの擁護しようとしたものが、快活と美を愛する心と香がごとき生命の喜びであるにせよ、北欧の神々、その豊饒神もドイツにおいて生き生きとした生命の喜びを鼓舞していたはずであり、それを思うと、大陸における彼らの無視のされ方は、ギリシアに劣らず、むしろそれ以上に痛々しい。」青土社 北欧神話 あとがきより

このコメントは、私が「ヨーロツパ異教史」東京書籍を読んだとき持った感情と似ています。それ以来、米原まり子氏のごとく、私は「古代の女神」が正しく認識されるように、「古代の女神」の使徒になったようです。キリスト教を始めとするあらゆる「神学」・「教義」を否定するつもりは一切ありません。ただ、人類が持った「概念」の歴史は正しく認識されるべきだと考えるのです。人類の未来は,正しい認識の延長線上に築かれるべきだと考えます。

 

変容し、後世に引き継がれていった「手」の表象・一例

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 千手観音座像(三十三間堂安置);Wikipedia

 

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Aten;Basics for Travel Log(本来太陽神ではない)

 

 

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(1)Relicario(聖遺物容器)ポルトガル、コインブラ、旧大聖堂

 Inventario da Coleccao Museu Nacional de Machada de Castro Coimbra

 

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