形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

トピックス(9)「イシュタル」の表象(3-12)

 

 

イシュタルの手(3)

ミャオ族と「イシュタルの手と舟」(3)・イシュタルの舟から龍舟へ(2)

荒神龍押し、盆綱、盆綱引き

 

死人を冥界に導く「イシュタルの舟」の概念は、黒海大洪水にあと、コーカサスとアナトリア地方の黒海沿岸地方に生まれたと考えられます。「(火と)雨による平衡の女神」(参照・ただし、この時点でSheveron・ギザギザ線の解釈に誤りがあります)と「ビーナス(生命の女神)」(参照)の習合した女神は、「水=雨」が黒海大洪水で多くの人を死なせた後、「冥界の女神」にもなります。(参照)

 この後、「イシュタルの舟」の表象は、西方エーゲ海(キュクラデス諸島)の古代遺物・フライパンやスカンジナビア半島の岩絵などに見られます。東方では、ミャオ族の銅鼓船文に刻まれます。

ミャオ族の銅鼓船文からは、「手(雨)」の表象が「龍」に変容するのが見られました。(参照)

そしてその「龍(大蛇)」は、同じ概念で日本にも伝播しています。そのことを見ていきます。

 

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 (30)「盆綱」佐倉市;佐倉市ウエブサイト

 

日本では、[龍]は民話、民間信仰、神楽などいろいろな形で伝承されています。イシュタルは多くの神格を持っていたので、その一つの神格が現れれば「雨の女神」、「水の女神」、「火(火災)除けの女神」、「豊穣の女神」、「生命(子宝)の女神」、「平衡(天地の調和したよい状態)の女神」、「冥界の女神」などとなって信仰されています。

その中でコーカサス、アナトリア地方では「冥界の女神」が乗り、死者を冥界に案内する「イシュタルの舟」が、「祖霊を現生に迎える龍舟」に変容した例はミャオ族に見られましたが、日本で「祖霊を現生に迎える龍舟」は、さらに「藁の龍」になります。

 

 写真(30)佐倉市の「盆綱」は、東関東や北九州で行われている民間行事です。地域により違いはあるものの、祖霊を迎えるお盆の行事であることは変わりません。「藁龍」は、冥界(墓所)から祖霊を家まで運ぶ役割を担っています。死人を冥界に運ぶ「イシュタルの舟」とは進行方向が反対になっています。このことは「祖霊」と言う概念が生れ、後のボン教や仏教の行事に取り入れられたことを示します。ただ、冥界と現生を結ぶ「イシュタルの舟」の概念は維持され、「盆綱」のルーツが「イシュタルの龍舟」にある事は確かです。

 

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 (29)33年ごとの式年大神楽「龍押し」、広島県東城町川島、昭和27年

  別冊太陽・祭礼、神と人との饗宴

 

また、「藁龍」の存在と、現生での死から冥界と言う方向性を認めるものに「神楽」があります。「別冊太陽」の「祭礼・神と人との饗宴」の中で、山本ひろ子さんが「神楽」の本質に言及しています。

「神楽」の祖型を留める「諏訪神楽」のテーマ「生まれ替わり」は、死者が「浄土」に入り、祖霊の一員として生まれ替わることです。この神楽において、「浄土」の門をくぐることは非常に難しいとされ、経聖(きょうひじり)に「経文」を教わり、「経文の功徳」によってやっと「浄土」に至ります。

この祖型をを引き継いだ、「花祭」(後で言及)の母胎となった「三河大神楽」でも、この構図はそのままに「生まれ替わり」は「浄土入り」になります。

ここで、「神楽」の本義がわかりやすく見られます。

 「三河大神楽」では、「浄土入り」を果たすには「神楽実修の功徳」が必要となっているのです。

 つまり「神楽」は「浄土」に入るために「功徳」を積む神事だったのです。

 

「藁龍」

さらに、山本ひろ子さんの文章によれば、広島県東城町、西条町に伝承されている「比婆荒神大神楽」には「藁龍」が登場します。私の考えでは、この「藁龍」は死者を冥界(浄土)に運ぶものから転じて、「浄土」に入りたい死霊そのものを表しています。

山本ひろ子さんの言葉を借りれば 、「藁龍」は「未浄化の荒ぶる新霊を表しているのです。」。その荒ぶる様は「龍押し」で表現されています。「比婆荒神大神楽」の「浄土」を表す「神殿」に入るには、「鱗削り」で浄化されることが必要です。浄化されて初めて、「神殿入り」を果たし、祖霊に加わることができます。この「比婆荒神大神楽」の構図も、「神楽」の祖型を留める「諏訪神楽」と同じなのです。

 

 

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(30)大河内神楽;「綱入れ」;別冊太陽・祭礼、神と人との饗宴

 

写真(30)大河内神楽はイシュタルの概念が、はっきりした形になっているかぐらです。章を変え、詳しく見ていきたいと思います。

 

 

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