形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

トピックス(9)「イシュタル」の表象(3-12)

 

 

イシュタルの手(3)

イシュタルの舟から藁龍へ
大河内神楽(宮崎県・椎葉神楽)・柴荒神とディオニュソス

 

 

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 (39)アッティカ式壺絵に描かれた、ディオニュソス、マイナス、サテュロス、シレノス

   ARCHEO・ギリシャ文明

 

大河内神楽の「柴荒神」が登場する、本質的な場面は、「柴入れ」、「樽面」から始まります。この場面はすぐに、ディオニュソスに従う、シレノスとマイナスを想起させました。高天原(コーカサス地方)から東西に、イシュタルの同じ概念が伝播して、それぞれの似たようなコンテンツを作り上げているのが見られるのです。

詳しく説明しましょう。

 山本ひろ子さんの文章によると、「柴入れ」から「樽面」、そして「柴荒神」の登場までは、以下のように展開します。

急に外が騒がしくなり、「柴」(榊)を手にした者達が「御神屋」に乱入してきます。そして、注連の中を乱舞して回ります。やがて神主と問答になり、「神前を荒らすのは許せぬ」とする神主に「樽一本で許してください。」と詫びを入れる。すると、道化者の「樽面」が酒樽を担いで出てきます。「樽面」は滑稽なしぐさで笑いを取りながら、見物客に酒を注いで回る。「樽面」は酒樽を置いて退場する。呼び出しに導かれた「柴荒神」が「面棒」を持って登場し、神主の持つ「榊」(山の象徴)を引き抜く「柴引き」を行い、「面棒」を振りかざし、舞う。そして「酒樽」に座す。「柴荒神」は神主と問答を交わし、最後に「面棒」を神主に譲る。そして、「面棒」を手にした神主の舞に終わる。

この「山の神」と思われる「柴荒神」の神事次第を見たとき、理解出来ないことがありました。「椎葉神楽」を「狩猟文化」と関係付けて論説する文章も掲載されていましたが、「山の神」である「柴荒神」は、「狩猟」ではなく「酒の神」として登場しているのです。泥酔した人々の乱舞に始まり、酒樽を担ぐ「樽面」の目立った個性の所作、そして「酒樽」に座す「柴荒神」です。「酒の神」なら稲作の藁に関係付けられる、後に登場する「綱荒神」の方が妥当です。なぜ、「山の神」が「酒の神」なのでしょうか?

 

「酒樽」を単なる「酒」と考えれば、「柴荒神」の神格が、「ディオニュソス」に重なるのです。「ディオニュソス」は「酒(葡萄酒)の神」であり、シルフューム(参照)を表すハートの表象(ハートの実のなる大ウイキョウの杖)を持つ「生命の神(ヴィーナス)」でもあります。そして何より「豊穣の神」なのです。「豊穣の神」はコーカサス地方において、雌雄異株の「野ブドウ」の受粉を助ける「鳥妖精」に始まります。「鳥妖精」はコーカサス地方の「豊穣の大神」となり、西からやってきた「雨による平衡の女神」にもコーカサス地方の神格を与え「二羽の鳥」(参照)で表しました。やがて、「大神」は「天空神」となり、「豊穣の神格」は「ヴィーナス」とも習合した「雨による平衡の女神」、すなわち「イシュタル」が引き継ぎます。「ディオニュソス」は「男神ゼウス」の時代に、男女に変容された「イシュタル」の姿です。女神「イシュタル」への根強い民衆の思いは、「男神ゼウス」に関係付けた「ディオニュソス」を生み出したのだと考えています。「ディオニュソス」は「イシュタル」の多くの神格を引き継いでいます。

イシュタルを軸に、変容した「ディオニュソス」と「柴荒神」を対比すれば、よく理解出来ます。「樽面」が運んできた酒が「野ブドウ」の葡萄酒だと仮定すると、「山の豊穣の神」・「柴荒神」の説明がつくのです。「山の豊穣の神」はイシュタルの「翼」(二羽の鳥)が表象する神格です。

 

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  (40)大河内神楽、酒樽を担ぐ「樽面」;別冊太陽・祭礼、神と人との饗宴

 

もう皆さんもお気づきですね。「御神屋」に乱入して乱舞する人々は、「ディオニュソス」信奉者の「マイナス」達と同じです。「マイナス」達が女性で、女性の社会的暗黒面を持った集団とされているのは、なお根強い信奉者を持つ女神・イシュタルを否定的に表現するためであったと思います。権力的なイシュタルの変容です。日本では「天照大御神」は女神です。社会的暗黒面を持った「マイナス」達は現れていません。ただ、イシュタルの否定的変容は「鬼子母神」の伝播に見ることができます。

酒に酔い乱舞する、酒の神の信奉者ととらえれば、同じ存在であることが分かります。

 

 

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(41)ETORURIAパテラ 銀、鍍金、野ブドウと葡萄酒用の壺を持って浮かれる「シレノス」;パレストリーナ、コロンベッラ墓地、ベルナルディーニの墓、イタリア(BC7世紀第一四半期)・参照

黄金伝説展 古代地中海の秘宝 国立西洋美術館図録

 

 そして、山で「野ブドウ」から「酒」を作り、飲み、浮かれて踊る「森の神」とされる「シレノス」は、「酒樽」を担いで、おどけて登場する「樽面」と同じです。この「野ブドウの酒」は、「山の豊穣」(参照)の概念を作り、「山の神」は「山の豊穣の神」となりました。

次に、「酒樽」に座す「柴荒神」が 「山の豊穣の神」であることを、持って登場し、持って踊り、最後に神主に譲る「面棒」から考えてみましょう。

 

 

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(42)葡萄酒用の壺;埋もれた古代大国の謎・幻の国ウラルトゥを探る(岩波書店)

 

 

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(43)ETORURIA、野ブドウの花の下に横たわるシレノスが表された飾り石;ヴィニャネッロ、クーバ墓地、第七号墓、
イタリア(BC480年頃);実は、エトルリアの「森の神・Silvano dio delle selve」・参照1、参照2
 

 黄金伝説展 古代地中海の秘宝 国立西洋美術館図録

 

 

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