形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

トピックス(9)「イシュタル」の表象(3-23)

 

 

 

 イシュタルの手(3)

戸下神楽(諸塚神楽)とミノア文明

 

 

クレタ島に長方形(輝く雨の表象)の概念が現れたのは、前宮殿時代のBC2,3000年頃と言われています。それは、長方形の共同墓地や広場の形をとっています。それまでは、アフリカ部族の概念を示す円形でした。墓は円形トロス墓です(参照).

バルカン半島の、円の概念を持つ「Butmir culture(BC5,100~4,500年頃)(参照)」でも長方形の家を、長方形の配列で建てることが見られました、それはコーカサス地方部族の進出と重なっていました。その後、バルカン半島西北部、ドナウ川南の元「Butmir culture」の北アフリカ部族と、制圧していたコーカサス地方出身部族は、BC2,200年頃、南ロシア草原遊牧騎馬のスラブ部族(Yamna culture)に追われ、南下します(参照)。 そして、クレタ島に長方形(輝く雨の表象)の概念が現れたのと、バルカン半島コーカサス地方出身部族と北アフリカ部族の南下、さらに、日本に「陸稲」が現れた縄文時代後期中庸とは、すべて 時を同じくしています。長方形の連なる「四手(神垂)」(参照)や「御幣」も同じ長方形(輝く雨の表象)の概念から生まれたと思われます。

そうすると「戸下神楽」に見られる、「山守」(イシュタル)の降臨と、「陸稲」の栽培による太陽神「天照大神」概念の誕生はBC2,000頃(縄文時代後期中庸)から弥生時代以前に、「日向」の地で起こった出来事と概念だと解ります。

「戸下神楽」で「山守」(イシュタル)の花笠の縁に吊るされた「切餅」は、長方形(輝く雨の表象)の概念と「陸稲」を暗示する、大切な表象でした(参照)

 

 

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 (54)Palace style pithos with axes and plant(Silphum(参照)・1),(参照・2) motifs;

           Crete, GREECE monuments and museums

 

この美しい「ミノア文明」、新宮殿時代末期(BC1,480~1,425年頃)の「pithos (貯蔵用大甕)」には、装飾的な「double-axes(両刃の斧)」が描かれています。もとになった表象は、写真(55)のように、地中海北岸海洋民の表象に「Cardium pottery culture(BC6,400~5,500年頃)」の頃から現れた、「ホタテ貝」由来の「雨による平衡の女神」・表象です。

そして、「戸下神楽」の「御神屋」の神棚には 写真(55)のようにリボンが掛けられています。「double-axes(両刃の斧)」に発達する前の「雨による平衡の女神」・表象です。

 

またこの大甕に表象された意味は「double-axes(両刃の斧)」=「雨による平衡の女神」、「Silphum・シルフューム」=「出産、生命の誕生」で「ディオニソス」の神格を表します。「葡萄酒」か「蜂蜜種」を入れていたのでしょうか。「戸下神楽」の「春日大神」の手にしていた、「御幣」=「「輝く雨による平衡」、「鈴」=「出産、生命の誕生」と同じ組み合わせで、同じ概念を表しています。すなわち、「ヴィーナス」の神格がつよくあらわれた「雨による平衡の女神」です。「春日大神」の手にしていた「鈴」は、ギリシャ時代の壺絵に描かれる「ディオニソス」の持つ「杖(クレタ島に降臨したイシュタルはバトンのように杖を持って描かれる。)」の先端につく「Silphum・シルフュームのハート型の実」のつき方によく似て、山形に小さな鈴を組み合わせています。また神社にある「大きな鈴」の開口部の両端は必ずハート型になっていることをご存じでしょうか。

 

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(50) 「ハート型の実」の付く「Silphum・シルフューム」を杖にする「ディオニュソス」:アッティカ式鐘形クラテル絵、BC5世紀:ARCHEO ギリシャ文明

 

 この他にも、今まで説明してきたように「ミノア文明」初期と「戸下神楽」の概念や表象には数々の共通点が見られます。まだ大切なことがあるのですが、その前に、「pithos (貯蔵用大甕)」に描かれた植物は「大ウイキョウ」の 「Silphum(シルフューム)」(参照) です。この描き方は「クノッソス宮殿」の有名な「玉座の間」に描かれた「シルフューム」と似ていますが、「花」が違っています。「クノッソス宮殿」など、多くの場合、花は横向きに描かれるのですが、この大甕には「菊の紋章」のように描かれています。また描かれた「シルフューム」の形が、日本の皇室行事「歌会始の儀」の折、両陛下の後ろに建てられる「屛風絵」によく似ていることが気になります。

 

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(55)和久ノート;(参照・1)   ,(参照・2),(参照・3)

 

  カール・ケレーニイは著書「ディオニューソス(参照)の中で、「ギリシャ神話」以前のクレタ島の「ゼウス」について面白いことを言っています。

 「ギリシャ神話」以前に,クレタ島で生まれた「ゼウス」は「児童神」であり、ギリシャ時代になって「天空神」になります。最初クレタ島では、「ゼウス」とは「光り輝くこと」を意味し、後になってなって「明るく照らすもの」に変化したそうです。「光り輝く」ものは四角、長方形、菱形で表象する「輝く雨」(参照)です。「明るく照らすもの」は`天空の「太陽」です。「ギリシャ神話」成立以前のゼウスは「火と雨による平衡の女神」が変容した「雨と太陽の平衡の神」だったのかもしれません。

ちょうど「戸下神楽」で、「春日大神」が「輝く雨(御幣を持ち、四手の印を組む)」の神であり、「天照大神」が「明るく照らす神(太陽と月を表す扇子を持つ)」であることと同じ変化をしています。「ギリシャ神話」や「記紀神話」による変容を受け以前の、「クレタ島(ミノア文明)」と「日向(戸下神楽の概念)」は非常に似ています。

写真(58)や(59)には「double-axes(両刃の斧)」や「ハート型」が見られ「ミノア文明」やそれ以前の「アナトリア」と結びついています。日本の縄文時代草創期や初期に見られる「ヴィーナス(アフリカ、ヨーロッパでは脱アフリカの時代まで遡ります。)」以外は、バルカン半島アナトリア、東ヨーロッパ、西アジアの「雨による平衡の女神」の時代時代の変容が、そのまま「土偶」の形になっています。非常に解り易い比較ですので、すぐ後で、試みます。

また「土偶」と「日向(戸下神楽の概念)」においても、非常に面白いことが起こっているのです。皆様ご存じのように、「日向」には「ヴィーナス」以外、「土偶」がないのです。何故でしょうか?

土偶」といえば、始まりはハンガリーの「Koros Culture」(参照1)の前身として、ヤンガードリヤス期の後半以後に定住した部族が作った、写真(60)石製「雨による平衡の女神」ではないかと思っています。石製はやがてテラコッタとなっていきます。詳しい説明は次章にしますが、「雨による平衡の女神」像は長方形につくられたことに注目してください。冒頭で説明した「長方形の概念・輝く雨」は「雨による平衡の女神」と一体であったことが解ります。

そしてそれは、「戸下神楽」の「山守」が花笠にぶら下げていた「切り餅」の形でもあります。

 

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(60)「雨粒(点々)」と「水を表す三本線」の石製「雨による平衡の女神」、      「Koros Culture」新石器時代

     Me'htelek,Koros Culture,Hungary.: Me'htelek Nandor Kalicz著

 

日本の土偶は、縄文時代前期(BC5,000~3,500年頃)には、「平衡」を表す「✙」の土偶が現れています。この頃から「雨による平衡の女神」は、土偶を伴った祭儀として縄文社会に根付いていったものと考えられます。その後、「雨による平衡の女神」の新しい概念が伝播しても、鳥のように手を広げたりするように、土偶の形の中に取り込まれ、祭儀そのものを大きく変えることはなかったように考えられます。

 縄文時代末期に「豊穣の女神」、「冥界の女神」や「ヴィーナス」の神格を持った「イシュタル」が伝播しても、写真(58)、(59)に見るように、「double-axes(両刃の斧)」や「ハート型」を持った土偶が作られ、伝統的な祭儀は守られたと思われます。基本となる女神は常に「雨による平衡の女神」なのですから、当然といえば当然なことなのです。このような「イシュタル」の概念は、千葉県、岡山県、長野県を中心として数々の土偶で確認されます。

一方、日向においては、土偶を伴った祭儀は存在していませんでした。そのため伝播した当時の「イシュタル」の概念がそのまま根付き、民間信仰の形をとっていったと考えます。「戸下神楽」の概念とは、日向の地に根付いていった、「イシュタル」の概念そのものであったと考えます。

 

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(58)「double-axes(両刃の斧)」の表象を持つ土偶、千葉県銚子市、金山貝塚縄文時代、後期後葉・BC1,300年頃);土偶・コスモス 羽島書店

 

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(58)拡大

 

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(59)ハート型の顔をして、両手を翼のように広げた土偶縄文時代中期後半

          縄文土偶ガイドブック 新泉社

 

 

 

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 (56)Double-axes of gold with engraved patterns,from a sacred caveaArkalochori               in  central Crete    ;MINOAN AND MYCENAEAN ART,T&H

 

 

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 (57)Basket-shaped palace style vase with double axes

      Crete, GREECE monuments and museums

 

 

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