形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

トピックス(9)「イシュタル」の表象(3-24)

 

 

ミノア文明と縄文文化  「蛇」を飼う文化

 

 安田吉憲氏著の「 蛇と十字架」に出会ったのは、十年前の頃になると思います。著書の中で、明治時代まで「蛇」を飼う文化が残っていた中心的な地方として、広島県岡山県徳島県三好郡(現三好市)と書かれていたので、強く印象に残りました。徳島県三好郡(現三好市)は私の故郷です。そして天井裏に住む「蛇(アオダイショウ)」は「家の守り神」と教えられ、自然なこととして共存していたのです。時々卵や鶏を狙って出てくる大きな「蛇(アオダイショウ)」はカマクビをもたげると、幼い私の背丈を超えていました。当時飼っていた秋田犬の混じったシェパードや父親が、にらみを利かして対峙していた姿を憶えています。天井裏に危害を加えることなく、おとなしく帰っていただくのでした。

また著書の中で、「常陸国風土記」に「蛇」を飼っていた伝承とともに、「蛇を飼う容器」があったと書かれていました。しかし、「蛇を飼う容器」が発見されていないため、架空の物語として扱われてきたとも書かれています。

ミノア文明の知識と表象の意味が解れば、「異形台付土器(相似形の大小2個体が近接して出土する)」が「蛇を飼う容器」であることは、すぐに理解できます。

 

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(61)「異形台付土器(相似形の大小2個体が近接して出土する)」、埼玉県岩槻市真福寺貝塚、縄文後期(BC2,500~1,200年頃)

   不思議な縄文土器大田区郷士博物館

 

今までに何度も書いてきましたが、上部(後期)マグダレニアン(Supe'rieur Magdale'nienne)期に生まれた「平衡」の表象・「Cheveron・V]は、「V]を組み合わせながら様々に変容します。その中の「ギザギザ線」はコーカサス地方で「蛇」とみなされ、「蛇」は「平衡」のシンボルになります。また「黒海大洪水」で「水」が多くの人を殺したため、「冥界の女神」ともなったイシュタル(ヴィーナスと習合した雨による平衡の女神)の「イシュタルの舟」(参照)に現れるなど平衡の女神・イシュタルの表象にもなります。日本の「神楽」に現れる「藁龍」や「藁蛇」が、死者を冥界に送る「イシュタルの舟」であることは、これまでに見てきました。(参照)

 また写真(S・35)に出ている「X」,「十」は、主にバルカン半島で「平衡」の表象としてよく表れています。

この「平衡」の表象の,「十」、「平衡」のシンボル「蛇」そして「平衡の女神・イシュタル」が結びついたのが「蛇」を飼う文化です。

 

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(S・35)上部(後期)マグダレニアン(Supe'rieur Magdale'nienne)期に生まれた「平衡」の表象・「V](Cheveron)の変容

    THE LANGUAGE OF THE GODDESS;Marija Gimbutas

 

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(S・25)イシュタルの舟;BC3,500年頃、キュクラデス

THE LANGUAGE OF THE GODDESS;Marija Gimbutas

 イシュタルの表象として「Cheveron・VVV]、「△」、「蛇」、「魚」が現れています。

 「魚」アナトリアや中国にも現れて、キリストにも使われます。

 

田吉憲 氏の著書によれば、 写真(62)はクノッソス宮殿(新宮殿時BC1,700~1,450年頃)の西庭から見つかった中空の、蛇を飼う容器だそうです。外側には餌皿が付いています。形は「十」になっています。「平衡」の表象の「十」、「平衡」のシンボル「蛇」がそろいました。そして、だれのための祭儀が行われていたのかは、写真(64)で明白でしょう、「平衡の女神」です。写真(64)の二体の「平衡の女神」は同じクノッソス宮殿から箱に入って見つかった物です。同じ箱には写真(69)の「平衡」の表象、「十」の青緑色の大理石が入っていました。ここで、「平衡」の表象の,「十」、「平衡」のシンボル「蛇」そして「平衡の女神二体」が揃いました。「平衡の女神二体」もはっきりした違いが認識できます。小さい方は頭上に「ヒョウ」が載っています。「ヒョウ」の毛皮をまとった姿で表されるのは「ディオニュソス」です。「ヒョウ」は「ヴィーナス」の神格を表します。イシュタルの聖獣「ライオン」と同じく「ネコ科」で「安産、多産、生命の誕生」のシンボルです。ギリシャ時代と違いミノア文明では、「ディオニュソス」がまだ「ヴィーナス」の神格の強く表れた「平衡の女神」だったことも解ります。「ヴィーナス」の神格の強さは、はだけた乳房がより目立っていることからも理解できます。そうすると、大きい方は「イシュタル」です。クノッソス宮殿(新宮殿時BC1,700~1,450年頃)の西庭で行われた「蛇」の祭儀に使用されていたのではないでしょうか。

ミノア文明の新宮殿時(BC1,700~1,450年頃)までは、「ディオニュソス」がまだ「ヴィーナス」の神格の強く表れた「女神」であったこと、「イシュタル」と「ディオニュソス」が主神であり、「ゼウス」はまだ「児童紳」であったことも、新たな発見です。「ディオニュソス」と同じように、ある神格が強く表れた「平衡の女神」の変容した姿の「ゼウス」もまだ、「女神」であったことを考えるべきでしょう。日本において「天照大神」が「女神」であることに繋がります。

 

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 (62)クノッソス宮殿(新宮殿時代BC1,700~1,450年頃)から見つかった蛇を飼う容器。蜂蜜やミルクを入れる餌皿が付いている。クレタ島イラクリオン博物館

         蛇と十字架;安田吉憲 人文書院

 

クノッソス宮殿(新宮殿時代BC1,700~1,450年頃)から見つかった蛇を飼う容器と写真(63)「異形台付土器」を比べてください。基本構造は「平衡」の表象「十」で、「蛇」を飼うために中空となっています。餌皿が付いているところには、そこから餌が食べられるように「穴」が開いています。そして、二体の女神の概念を、相似形の大小2個体で表しています。そうしてみると逆に、「異形台付土器」が教えてくれることがあります。つまりクノッソス宮殿(新宮殿時代BC1,700~1,450年頃)における「蛇の祭儀」に、 写真(64)の相似形の大小2個体の女神像が使われていたこと、そして、「蛇の祭儀」とは「イシュタル」と「ディオニュソス」の「祭儀」であったことです。それ故に、縄文後期(BC2,500~1,200年頃)の日本では、両方の概念が組み合わさった「異形台付土器」が作られたのだと考えられるのです。

またそのことは、写真(65)の女神が「十」構造で、「◇・輝く雨」の表象を持つ「雨による平衡の女神」であり、頭に「蛇」を持つことからも解ります。

写真(61)は写真(65)がより装飾的に表現されたか、数匹の「蛇」を同時に飼う構造だと考えています。

 

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(63)「異形台付土器(相似形の大小2個体が近接して出土する)」、千葉県千葉市加曾利北貝塚、縄文後期(BC2,500~1,200年頃)

           不思議な縄文土器大田区郷士博物館

 

 

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 (64)(大)蛇をぐるぐる巻きにした神像、帽子の上には鎌首をもたげた蛇。

         (小)蛇 を両手に持ち、帽子の上にヒョウがいる神像。クノッソス宮殿(新宮殿j  時代BC1,700~1,450年頃)、クレタ島イラクリオン博物館

           蛇と十字架;安田吉憲 人文書院

 

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(69)写真(64)の女神と同じ箱に入れられていた青緑色の大理石、クノッソス宮殿(新宮殿j 時代BC1,700~1,450年頃)、クレタ島イラクリオン博物館

 蛇と十字架;安田吉憲 人文書院

 

 

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(65)「輝く雨」、「十字」、「ドグロを巻く蛇」、「蛇の目」を持つ土偶

   長野県諏訪郡富士見町、藤内遺跡、縄文中期中葉(BC3,000年頃)

   縄文のメドーサ 田中基 現代書館

 

同じく「蛇お飼う容器」の構造を持ちながら、「平衡」を表す「十」構造が変容した土器が、千葉県佐倉市宮内井戸作遺跡から見つかっています。この土器の変容には、ミノア文明からミケーネ文明への時代の変化がそのまま投影されています。より地中海地域と縄文後期から晩期の強いつながりを証明しています。

この変容の原因をミノア文明の遺物から見ていきます。

 

 

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 (66)「異形台付土器(相似形の大小2個体が近接して出土する)」、千葉県佐倉市宮内井戸作遺跡、縄文後期;不思議な縄文土器大田区郷士博物館

      

 

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 (67)上げた両手と頭に蛇を持つ女神像、a shrine in Gorty in the Mesara in country     district  Crete, The Post -Palace Period(諸宮殿崩壊後の時代,

  (BC1,425~1,170年頃);Ancient Crete, T&H

 

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(68)頭に鳥を持つ女神像、Gazi near Heraklion in country district  Crete, The Post -Palace  Period(諸宮殿崩壊後の時代,BC1,425~1,170年頃);Ancient Crete, T&H

 

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