形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

トピックス(9)「イシュタル」の表象(3-26)

 

 

「蛇」を飼う文化(3)ミノア文明とアテナ,そしてイシュタルの表象「フクロウ」

 

 

 パルテノン神殿で蛇が飼われていたのは、広く知られた史実です。女神アテナ(アテーナー)を「蛇の女神」と呼ぶ者もいます、(参照)

 確かに女神アテナ(アテーナー)は、古代彫刻や壺絵に「蛇」とともに表現されています。だが、「蛇の女神」と表現するとき、本質を見失うことになりかねません。「蛇」は「平衡」の表象に過ぎないのです。「表象の連続性」で歴史を見たときに、より鮮明に、「女神アテナ(アテーナー)」が理解できます。

そしてにギリシャ時代の女神アテナ(アテーナー)といっても、長いギリシャ時代(BC1,200~文化的にはBC323年アレキサンダー大王の病死頃まで)には、表現も神格も大きな変容がありますので、ひとまとめに語ることは避けなければいけないと思います。また神々の話になると、ギリシャ神話が持ち出されますが、そもそもギリシャ神話が体系的にまとまるのは紀元前9世紀から8世紀頃になりますので、神話に重きを置くことはできません。それは、「戸下神楽」(参照)で見られたように、日向で天照大神が生まれるまでと、そのことをベースに「古事記」が編纂された後とでは、神々に大きな変化が起きたことと同じです。ギリシャでも日本でも、神話成立以前の神々を見てゆくことが、史実に近づく方法だと考えます。神話とは、大きな時の権力の意向によって、作り替えられた文化であることが多いからです。

ギリシャの小高い丘の上(Wikipediaによれば、アテナ、ミケーネ、コリントス、テーバイ等)に女神の神殿が作られたのは、ミノア文明までさかのぼるようです。つまり、クレタ島でのイシュタルの降臨(参照)と同じことが起こっています。この時、イシュタルが手にしていたには「杖」で、「手・雨の表象」と「杖」と「腕」でつくる「✙・平衡」で「雨による平衡の女神」を表しています。イシュタルと蛇が強く結ばれるのは、ミノア文明の期間で、その原因はメソポタミアにおける変化があります。このことは、次の機会にします。ギリシャの小高い丘の上の女神が、当初手にしていたのが「杖」か「蛇」によって、正確な時間軸が作れます。考古学の発見があれば嬉しいところです。

写真(75)、 BC520年頃のアテナの彫像は「蛇」を持っています。この彫像は、頭の多数の「蛇」から見ても、写真(67)ミノア文明、諸宮殿崩壊後の時代(BC1,425~1,170年頃)のアテナである事が分かります。

 

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(75)パルテノン神殿、東側破風(はふ)のアテナの彫像、BC520年頃

    ARCHEO ギリシャ文明

 

つまり、ギリシャの小高い丘の上に女神(イシュタル)が降臨したのは、ミノア文明と同時期に、同じようなことが起こったか、またはミノア文明の影響が及んだかの、どちらかです。ミノア文明の影響を受けつつ、文化を発達させ、クレタ島の諸宮殿を崩壊したのち、ミケーネ文明 を築いたのですから、後者である確率が高いと思います。そうだとするとミノア文明において、「平衡」の表象として「✙」より「蛇」を重要視し始めたのが、新宮殿時代(写真64)ですから、ギリシャのアテナは最初から「蛇」を手にしていたことになります。それまでのバルカン半島諸文明は「✙(Cheveron)」か「水牛の角」、「V(Cheveron)」(参照1参照2)を1平衡」の表象として用いてきましたので、「蛇」は明らかにミノア文明のイシュタルの影響です・「ギザギザ線の蛇(Cheveron)」は主にアナトリアで使われています。バルカン半島諸文明は、「ギザギザ線」を単に「(Cheveron)の平衡」として使ってきました。ただ、同じ「平衡」の表象として、「ギザギザ線」を用いているので、「平衡」の表象として「ギザギザ線」から変容した「蛇」を受け入れることは、容易であったと思われます。

 「イシュタル」を「雨による平衡の女神」と「コーカサス地方の鳥妖精」、「生命誕生の女神・ビーナス」(参照)

の習合した女神 と考えるならば、バルカン半島諸文明の「鳥姿の雨による平衡の女神」は本質的に「イシュタル」と同じであることが分かります。

 このことを写真(76)アテナイテトラドラクマ銀貨」は証明しています。

 

 

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 (67)上げた両手と頭に蛇を持つ女神像、a shrine in Gorty in the Mesara in country     district  Crete, The Post -Palace Period(諸宮殿崩壊後の時代,

  (BC1,425~1,170年頃);Ancient Crete, T&H

 

 

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 (64)(大)蛇をぐるぐる巻きにした神像、帽子の上には鎌首をもたげた蛇。(参照)

         (小)蛇 を両手に持ち、帽子の上にヒョウがいる神像。クノッソス宮殿(新宮殿j  時代BC1,700~1,450年頃)、クレタ島イラクリオン博物館

           蛇と十字架;安田吉憲 人文書院

 

アテナイテトラドラクマ銀貨」には女神アテナのシンボルとしての「フクロウ」が描かれています。「フクロウ」は「雨による平衡の女神」が誕生した頃から、雨粒の目を持つ鳥として、「雨による平衡の女神」のシンボルになっていました。やがて、マグダレニアン文化(参照) の東進によって、東ヨーロッパ、バルカン半島にもたらされます。このことと、バルカン半島で起こった、「コーカサス地方の鳥女神」との出会いと融合については、次の章にしましょう、話が長くなります。

むしろ東ヨーロッパ、バルカン半島では、「雨による平衡の女神(shevron)」と「ヴィーナス(渦巻)」との融合が起こったことが、重要かもしれません。

銀貨のj話に戻ります。「フクロウ」と供に、四つの表象が見られます。「フクロウ」の神性(アテナの神性)です。「△ 女神」、「〇 雨粒」、「下向きのE  雨」、「☽ 水牛の角・平衡」です。最初の三つはマグダレニアン文化から、「☽ 水牛の角・平衡」はコーカサス地方からの表象です。(参照・Varna cultrureの黄金)

 つまり女神アテナは古くからの、バルカン半島の「雨による平衡の女神」でもあるのです。

 

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(15)洞窟壁画とヴィーナス像の分布;分明の誕生 江坂輝彌 大貫良‘男

(参照)

 

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(22)「マグダレニアン( Magdale'nienne) 文化」の領域Wikipedia

 ((参照) )

 

クレタ島のミノア文化で、「平衡」の表象として「蛇」を両手に持つ「蛇女神」と、バルカン半島の、「水牛の角」を「平衡」の表象として持つ「鳥女神」は、同じ女神の定義に当てはまります。すなわち、私は「イシュタルを」を 「雨による平衡の女神」と「コーカサス地方の鳥妖精」、「生命誕生の女神・ビーナス」の習合した女神と定義しています。「鳥」に関してのみ、ヨーロッパ・マグダレニアン文化からの「フクロウ」になっていますが、バルカン半島では、「フクロウ」と後にやってきた「コーカサス地方の鳥妖精」は、それぞれの部族に受け継がれ存続していました。

アテナイテトラドラクマ銀貨」には女神アテナのシンボルとして、ヨーロッパ・マグダレニアン文化からの「フクロウ」とコーカサス地方からの「水牛の角」が見られ、初期の女神アテナはクレタ島・ミノア文明の「蛇の女神」でもあるのです。ギリシャ文明のルーツのなりたちが見えてきます。

その後現れるギリシャの様々な女神は、この3つの文化文明の習合した女神アテナの神性をバラバラにして弱体化させた、「男神・男権」中心主義の文化に合わせた女神たちになります。戦車を頭に乗せ、メドーサの首の付いた盾を持つ変容した女神アテナは、矛盾だらけの女神に見えてきます。魔物にされたメドーサとは、女神アテナ自身でもあるのですから。エトルリア文明の「ゴルゴン」も同じ運命をたどっています。

クレタ島のミノア文明では イシュタル、ディオニュソス、ゼウスは、生活文化により変容した同じ女神であったと思っています。ディオニュソスの中性化、ゼウスの男神化はギリシャ時代に起こった変容ではないでしょうか。

日本においては、「イシュタル」の変容した「天照大神(参照)が、女神のまま崇められています。

 

 

 

(76)アテナイテトラドラクマには、表面(左)にはアテーナーの頭部が、裏面(右)にはアテナイのポリスを象徴するフクロウとオリーブの小枝と三日月が刻印されていた。

 uikipedia

 

 

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(78)アテナイテトラドラクマ

ARCHEO ギリシャ文明

 

イシュタルのシンボルや聖獣としての「フクロウ」は、色々見てきたイシュタル最後のの表象としてまとめます。そうすると「Burney Relief」に表された、すべての表象を理解することになります。

 

 

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(60)Burney Relief・イシュタル;wikipedia

 

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