形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

トピックス(9)「イシュタル」の表象(3-29)

 

黒海北岸 スキタイ(scythians)、サルマタイ(sarmatians)の杖

 

 古ノルド語の「valva」は「杖を運ぶもの」,「魔法の杖を運ぶもの」の意味があり、「valva」の別名は「多くを知るもの」を意味します。古ノルド語への分流を遡れば「ゲルマン祖語」に、さらに遡れば「インド・ヨーロッパ祖語」に至ります。「インド・ヨーロッパ祖語」では、 古ノルド語の「預言」は「見ること、観察すること」の意味であったそうです。逆に「ゲルマン祖語」の分流「古英語」では「valva」の変化した言葉が「預言者、予言する者」に変化しています。これらを観察すると「見ること、観察すること」、「多くを知るもの」から「預言者、予言する者」への変化が観られます。(参照)

そして、「インド・ヨーロッパ祖語」の生まれた土地と考えられている黒海北岸の住人であった、「スキタイ」、の遺物には、多くの「真鍮製竿頭飾」が見つかっています。

サルマタイ」の遺物には「真鍮製杖」そのものが、見つかっています。さらに、「真鍮製竿頭飾」に現れる動物はみな、イシュタルのシンボルか聖獣です。

「杖」と「見ること、観察すること」、「黒海北岸」には「イシュタルの杖(バトン)」の秘密が隠されているようです。

 

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(1)真鍮製竿頭飾(スキタイ)、紀元前5~6世紀、L'Or des Amazones  PARIS musees

 

このイシュタルのシンボルか聖獣の付いた「スキタイ」、「サルマタイ」の「竿頭飾」を見たとき、直感的に、以前にも紹介した「一万年の旅路・翔泳社」を思い出しました。ネイティブ・アメリカンの「イロコイ族」に伝わる口承史です。2万年前に脱アフリカをして、シルクロードに近いコースで東アジアに至り、太平洋岸に定住します。長く定住したその地を、地殻変動により離れ、沈みかけていたベーリング海峡(1,0100年前頃)を渡りアメリカ大陸に至ります。この興味深い口承史の中に、深く記憶に残る「雪の冠」という老女と、彼女に付き従い学び、老いた「雪の冠」の後を継いで、ベーリング海峡の渡りを先導する「知恵の娘」がいました。「雪の冠」は部族から少し離れた場所にいて、客観的に部族の動向や話し合いを見ています。話し合いがまとまらず、助言を求められると、静かに語り始めます。「古の知恵よ・・・」、「私は見た・・・」、「私は考えていました・・」、何代も積み重ねてきた知恵と観察して考えた知識により、一族が、大自然の中生き延びる道を示すのです。

この口承史には脱アフリカした大小の部族グループが、ユーラシア大陸を移動していたことが語られています。口承で部族の知恵と歴史を優秀な女子が伝えていった部族は、生き残る確率が高かったと考えるのです。この知識の集積と、客観的に考え示す能力を持った女子の存在は、長い歴史の間に、尊敬される存在として確立していったと考えます。そして、終身知恵のために生きる女子の象徴が「杖」になったと思います。

その流れは東欧から西アジアステップ地帯に色濃く残ったのでしょう、「クヴァリンスク文化(Khvalinsk culture )BC4,900~3,500年頃」から、最初の騎馬文化である「スレドニ・ストグ文化(Sredny Stog culture))BC4,500~3,500年頃」で騎馬文化になり、男権的な社会になっても、リーダーではない「知恵の女(男?)」は象徴と供に尊敬されたようです。そのことは、これらの文化が「インド・ヨーロッパ祖語」が生まれたとされる時代と場所に近いからです。「インド・ヨーロッパ祖語」に残る「見ること、観察すること」から 古ノルド語の「杖を運ぶもの」,「魔法の杖を運ぶもの」の 「valva」が派生したのですから、「杖」は「見ること、観察すること」に関係付けされていたことが分かります。

さらに、同じ場所で「スキタイ」の時代に、女神イシュタルとの出会いで「神の声を聴くもの」を作っていったと考えます。女神イシュタルのシンボルか聖獣が「杖」に乗った経過を見ていく必要があります。

 キーワードは「杖」、「多くを知るもの」、「預言者、予言する者」そして「女神イシュタル」です。「杖(バトン)」と「女神イシュタル」の結びつきが、様々な新たな概念を作ったようです。

 

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 (2)真鍮製竿頭飾(スキタイ)、紀元前5世紀頃、SCYTHIAN GOLD 

     Museum of Historic Treasures of Ukraina

 

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 (3)真鍮製竿頭飾(スキタイ)、紀元前5~6世紀、L'Or des Amazones  PARIS musees

 

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  (4)真鍮製竿頭飾(スキタイ)、紀元前6世紀、L'Or des Amazones  PARIS musees  

 

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 (5)真鍮製パパイオス神竿頭飾(スキタイ)、紀元前5世紀頃、SCYTHIAN GOLD 

     Museum of Historic Treasures of Ukraina

 

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(6)真鍮製杖(サルマタイ)、紀元前1世紀頃、L'Or des Amazones  PARIS musees

 

 

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